現地調査のご報告と地盤調査について
先日の現地調査から数日後、伊藤様と河村氏と私の三人で弊社事務所に集結しました。
まず、先日の現地調査のご報告をさせて頂きました。
まず、建物を建築する環境はとしては最適です。
敷地の形も整っていて、イメージしている間取りやデザインも入りやすい最高の地型だと思います。
次に建物以外の部分なのですが、周りの建物やブロック塀、そして道路との高低差をみると少し地盤に不安が感じられます。
伊藤様ご自身、充分にお解かりだと思いますが、今回の『伊藤様邸プロジェクト』は、予算面において特にシビアにならなければいけません。
考えられる不安要素は、順番に取り除きながら進んでいくことが必要です。
間取りや仕様も大切ですが、まず初めに一番の不安要素である地盤調査を早急にかけたほうがよいと思います。
現在、伊藤様のご自宅が建っていますが、東西南北でしっかりと調査出来るスペースもありますので建物解体前でも充分に地盤調査できます。前回お話しさせて頂いたように、遅かれ早かれ、最終的には地盤調査を行わなければなりません。これは建物を建築する会社としての義務でもあり、たとえ伊藤様が現在お住まいの家において何も障害が無いとしても、新しく建築物を建てるときは絶対に必要なことです。そして調査の結果によっては、何らかの地盤補強工事をしなければなりません。もちろん建物に掛けられる予算も削らなければなりません。
前回もお話しされて頂いたので、充分に理解しています。覚悟は出来ています。
続けて道路から引き込まれている水道管・敷地の土についても説明をしました。
私が見た感想として、現在お住まいになられている家の古さ、水道メーターの箱の古さを考えると、恐らく給水管の入替えが必要になると思います。しかし現在までの間で水道局の方で入れ替え工事を行っている可能性もあるので、詳しくは弊社の水道業者に調べてもらいます。
よくあることなのですが、中途半端な古さの場合、新しく工事するかはお施主様のご判断となることがあります。仮にそのまま古い管を使い続けて漏水事故が発生しても、その費用は伊藤様の負担になる場合があります。恐らく水道局から『出来れば交換した方が良いのでは?』といった答えが返ってくると思います。
最後に敷地の土についてです。
基礎の大きさや深さ、地盤補強の施工方法によって、敷地の土を搬出しなければならない場合がございます。なるべく土を出さなくて済む方法で計画をしますが敷地調査の結果から考えると恐らく、場外に搬出する可能性が高いと思います。
以上、これらの工事の有無と金額が、建物の間取りや設備の仕様に大きく関係しますので、早速、段取りをしたいと思います。そして、仮にこれらの工事が必要になった場合も肩を落とさないでください。
伊藤様がこの土地に『伊藤様の求める家』を建てると決めた以上、切り離すことの出来ない大切な工事なのです。逆にこれからの長い間、家族が安心して暮らしていける家に住めるという喜びに変えてください。
伊藤様も私の説明に対し『解りました。地盤調査の手配をお願い致します。』と言ってくれました。
基本設計(ゾーニング作業)
これからは設計の河村氏の出番です。
基本的な設計の流れとしては、ヒヤリングと現場調査が終了した段階で河村氏が基本設計図を作成します。
その図面を基にお客様と話を進めるのですが、今回は、三者それぞれの時間が合わず、現地調査してすぐにお会いした為、ゾーニングからのお打合せとなりました。
河村氏はまず初めに、伊藤様が一番優先したいところを聞きました。
私の職業はご存知の通り大工です。基本的に休みは日曜日ですが、工事の状況で休みが取れない時も多々あります。そうなると子供達とも遊んであげることが出来ません。
休みが取れたときは子供たちと大きなLDKで思い切り遊んで過ごしたいです。
それが一番の望みです。
次に、本日一緒にお打合せに参加することが出来なかった、奥様のことについて質問しました。
奥様が、現在お住まいになられている家で、お困りになられていることや、新しくお住まいになられる家について何かご要望がございましたか?
家内の要望は、寒さが苦手なのでとにかく暖かい家がいいと言っていました。
また、子供たちの本やおもちゃなどが多い為、突然の来客時にいつも慌ててしまうそうです。簡単に片付ける場所がほしいとも話していました。
最後に新しいキッチンで早く料理をつくりたいと言っていました。
河村氏は伊藤様の一番優先したいところと、奥様が日々お困りになられているところを聞くと、ゾーニング作業に入りました。
ゾーニング作業
ゾーニングは、まず始めに、伊藤様の一番の要望である大きなLDKの配置について考えました。
現地でも確認した通り、日当り面では1・2階どちらも問題は有りませんでしたが、客間として使用する和室のことを考慮して、1階にLDKを持ってくることにしました。
その時点で1階は家族以外の方も使用する空間、2階は家族のみが使用するプライベート空間としてはっきりと分けることが出来ます。
次にこの大きなLDKを中心として、その他の1階スペースをどのように配置するかを考えました。
玄関はLDKを大きく東西方向に伸ばすことを考えて南側からの入口とすることにしました。そして廊下を設けないことにより、玄関収納を出来る限り大きくすることを考えました。
客間として利用する和室はLDKから更に南側の位置にして日当たりの確保を考えました。そうすることによりLDKの形も長方形を保つことができ、キッチンやテーブルなどの家具、テレビなども無理をせずに配置できると思いました。
トイレは手洗い器を設置すれば、畳1畳の大きさでも充分でしたが、LDKとトイレの間がドア1枚といった配置は、来客の方も使いづらいと思い、LDKとトイレの間に洗面所を設けることにしました。
2階に上がる階段はLDKから直接にするか、それとも階段室を設けるか、ひとまず保留としました。
2階は1階と同様、日当たり面を重視して全ての部屋を南面に接することにしました。
ご夫婦の部屋の大きさを優先に考え、次に子供部屋の大きさを考えました。廊下は南面を居室としたので必然的に北側となりました。法規的にも北側は屋根の高さが下がることが考えられたため、居室の天井が下がることを考えると最善の配置だと考えました。
水周りは単体で配置すると、それぞれが小さいスペースしか取れませんでしたが、洗濯機置き場、洗面所、トイレ、浴室と全てを一つにまとめることにより、大きな空間としてみることが出来ました。
以上、伊藤様のご要望と河村氏の考えを合せてのゾーニング作業が完了しました。
伊藤様も『この計画のイメージを崩さずに考えていきたい』と気に入ってくれました。奥様にも確認していただく為に、ゾーニング用紙を渡し1回目の打合せが終了しました。
基本設計ご提出
1回目のお打合せから、一週間後に再び3人は集まりました。河村氏が図面について説明する前に、私は伊藤様に地盤調査の結果と水道管の引き込み工事のことをお話しさせていただきました。
まず地盤ですが、やはり盛土が確認されました。盛土の厚みは3m~4mほどあり、その盛土部分のデータをみると、住宅を支える為の地耐力が不足していることがわかりました。安定した地盤は、さらにその下の5~7m付近にある為、地盤補強が必要であると判断されました。
次に、水道菅の引き込み工事について調べたところ、昭和45年に引き込まれた古い管でした。私が話した通り義務ではありませんが、やはり「新しく管を入れ直したほうが良い」と言われました。
私は伊藤様に以上の2点の結果を報告しましたが、伊藤様は『覚悟は出来ていましたから、大丈夫です。建物にかけられる予算が減っても仕方ないです。安心を取ります。』と言ってくれました。
私の報告が終わると、早速河村氏が図面を配りました。『先日のゾーニングに基づいて作成した図面です。』と説明を始めました。
全体的なプランのコンセプト
・家族とのコミュニケーションを大事に考えたご主人のご要望を最優先として考え、かつ他の空間も無駄にしない使い勝手の良い空間とする。
LDK
- 全体のバランスと相談しながら、22.4帖という広い空間を確保した。
- 階段をLDKの中央に設置することにより、施主が大切にしている家族とのコミュニケーションを計りやすくした。中央に設置した階段は視覚的に問題があるためにスケルトン仕上げとし、空間の遮断を無くすように考えた。
また、リビングから直接ダイニングを見られないように、リビング側の階段のそばに目隠しとなる格子等を立てることを考えた。更にこの場所にテレビの設置を考えた。 - 北側の壁面すべてを収納にすることにより、かなりの収納量を確保した。
また、この収納は壁として見えるように工夫し、視覚的に邪魔にならないよう配慮した。収納内にはパソコン机や家電製品が入るスペースも確保し、これらを使用するときにだけ扉を開けるように考えた。これによって常に広くて綺麗なLDKを演出できる。 - 南側の窓は高さ2m、幅2.5mの大きなサッシを2箇所設置することにより、 北側に窓が無くても、充分な光を取り入れられるようにした。
玄関
玄関+ホールという形式を取らず、全てを玄関という名の土間空間として考えた。
一般的に玄関+ホールという形式では、床の仕上げがそれぞれ異なり、しかも段差も生じてしまうので、視覚的に区切りが出来てしまうが、土間という形式で床の仕上げを一緒に考えることにより、同じ広さの空間でも、とても広く見えることが出来る。
また広く見える玄関には大きな下駄箱を設置しても圧迫感を緩和することが可能である。床はタイル仕上げとして考える。子供が泥だらけになって遊んできたとき、または雨に打たれて帰ってきたときの着替えの場所となる。さらに自転車なども置くことができ様々な空間となることが考えられる。
和室
現時点では畳スペース3帖+収納1.5帖と、収納力を重視した形としている。
ご両親やお客様がお泊りになる機会が多いようであれば、収納部分を吊り押入とし、畳スペース4.5帖を確保できることが可能。ご両親のお二人が足を伸ばしてお休みになることもでき、視覚的にも通常の4.5帖の和室に近い空間が感じられる。
1階(洗面所・トイレ)
ゾーニングの時にもお話したが、LDKとトイレが扉1枚だけで仕切られていると、家族同士であれば問題ないが、それ以外の方は少し気にされると思う。洗面スペースを挟むことで解消できる。
2階廊下
南面に居室を配置したことにより東西にかけて長い廊下となった。
やはり建築条件から天井の高さに制限があり天井が斜めになることとなったが、一番高い所で2m以上は確保できるので問題はないと感じる。更に廊下の窓を出窓にしてカウンターも設置すれば、空間が広がり圧迫感を忘れさせる。予算上の問題はあると思うが、出窓でなく、カウンターの下部を全て収納にする事も面白いと思う。
子供部屋
通常、居室の短手方向の間口は、最低1.5間は必要と考えるが、あえて1.0間にして、シングルベッドと机がギリギリに置ける空間とした。快適な空間にしないで、LDKで多くの時間を過ごしてもらうことを考慮した。収納は1.0間の大きさを確保しているので問題ない。
主寝室
お施主様の強いご希望はありませんでしたが、7.5帖の大きさが確保できた。子供部屋との間に階段を挟むことで、夫婦のプライベートを守りやすくした。
2階(トイレ・洗面・浴室)
2階の水周りは全て同じ空間の中に収めた。
家族のみのプライベート空間なのでこの形でも問題はないと思う。南側に設けた浴室の窓から洗濯機置き場まで充分に光が差し込める配置とした。
小屋裏収納
ご主人から、可能であれば、書斎がほしいという要望があったので小屋裏の収納を考えた。
天井の高さは一番高い部分で1.4mと低くなるが、座ってみると、充分な高さになる。
また、広さも10帖以上確保できるので、子供たちの隠れた遊び部屋になる。もちろん収納としても活用できる。
外観
ご主人のご希望であるシンプルなイメージで、南側に出来るだけ高い壁を造り北側に向かって下がっていく形にした。日当たりの良い南側には大きな窓を数多く設け、すべての部屋に光が注ぐよう考慮した。ベランダも東西にかけて全て移動できる様に考えた。
シンプルながらも大胆さのある外観になると思う。