伊藤様邸物語

神奈川県横浜市の注文住宅工務店株式会社FESの家づくりの流れのご案内

初顔合せ(ご来社)

電話を戴いてから一週間ほど経った夜に、その男性とお会いました。
男性は一目で『職人さん』とわかる格好で現れ、しかも体や洋服には木屑や汚れが付いていて、いかにも仕事帰りという姿でした。

私は男性の姿を見て弊社の大工と同様、『日々、現場で頑張って作業しているのだな』と感じると、妙に親近感が沸き早く話しを聞いてみたいと思いました。
男性を席に通して、私から言葉を掛けようとしたところ、男性の方から話を始めました。

初めまして、私は伊藤と申します。先日は突然のお電話で失礼いたしました。
実は5年程前から家族の間でマイホーム計画を立てていました。
ようやく今年になって、その計画が実行できるところまできて、家族みんなで喜んでいました。

しかし、現実は自分が考えていた以上に厳しくて、またマイホーム計画は先延ばしか・・・と半ば諦めかけていました。
そんな、ある日、職人仲間からFESさんの事を聞き、無理も承知で思い切って電話をかけてしまいました。

と、とても緊張した顔つきで話されました。 私は、伊藤様の緊張した姿をみて、『もっと、気楽に話しましょう。せっかくのマイホーム計画なのですから、楽しく明るく行きましょう!』と声を掛けました。

何故かと申しますと、当たり前のことですが、人は緊張しながら話をすると、本当に伝えたいことが言えなかったり、大切なことを言い忘れたりするからです。
特に家造りにおいては、何十種類もの部材や商品、そして数多くの業種や職人が集まって1つの物を完成させる為、小さなミスであっても、後で取り返しの付かない問題に発展する場合があるからです。
それは伊藤様だけでなく、同様に私自身にも言えることだからです。

私の言葉で、伊藤様の表情も少し穏やかになりました。もちろん自分自身の緊張感も和らぎました。
私は伊藤様に『FESの藤田です。宜しくお願い致します!』と自己紹介をして、本格的な面談がスタートしました。

まず始めに、弊社と同じ業界で働いている伊藤様が弊社に来るまで、どのような行動をされてきたのかを訊ねました。

伊藤様は真剣な顔つきで、

電話でも話した通り、私は10代の頃から横浜で大工という仕事をやってきました。今まで100棟を越える木造住宅を建ててきました。

もちろん様々な会社の建物や材料、設備品なども見てきました。
その中で『自分が求める住宅』というものを考えるようになり、自分が将来、家族と過ごすための城を構える時には、必ず『自分が求める住宅』で建てたい!と思っていました。

そして、先程も話した通り、ようやく今年になってマイホーム計画が実現できそうになったので、まず始めに自分の仲間の職人や業者(水道業者・電気業者・メーカー・他数十業者)に声をかけ、自らが先頭に立って建築することを考えました。

次に長年の間、自分自身が専属大工として所属している建築会社(年間数百棟の施工実績のある会社)に相談をしました。また、ハウスメーカーや工務店にも足を運びました。
しかし、結局『自分が求める住宅』を資金面と技術面の両方を満たしてくれる方法や会社を見つけることが出来できませんでした。

そんなある日、大工仲間から『オレの知人の更に、また知人の職人さんが、以前、FESという会社で家を建てたみたいで、何とか希望の条件に収まったらしいよ』という話を聞いたので、電話をしました。

と事の経緯を話してくれました。
私は伊藤様の話を聞いて、『えっ、誰の知人?どのお施主様のことだ?』と思いながらも、今の話の内容からすると『伊藤様の求める住宅』というものが、よほど厳しい条件なのだと感じました。

その訳は、全ての業界に当てはまるか分りませんが、普通、同じ業界で働いている人間が商品などを購入する場合、一般の方より優遇されるはずです。

まして、この建築業界というところは数多くの業種や職人さん達が協力し合って1つの建物が造られる為、仲間同士の絆も非常に強く、『仲間の為なら何でも協力するよ。お金は貸せないけど体なら幾らでも貸すよ。』といった義理や人情を大切にする人間が多くいる業界だからです。

このような業界の中で、自らが中心となり行動しても、また古くからお付き合いしている年間数百棟の施工実績があり、間違いなく資材の仕入れコストも抑えられているはずの建築会社でも無理だったからです。

そのようなことを感じながら一体、『伊藤様の求める住宅』はどのようなものなのか、とても気になってしまい具体的に聞いて見ることにしました。

伊藤様の求める住宅とは?

①建物・設備の仕様

  1. 夏は涼しく冬は暖かい快適な家(高気密・高断熱の家)
  2. 内装建材に自然素材を使った家
  3. 子供の世代まで長持ちする家
  4. オール電化の家

②間取り・デザイン

  1. 大きなLDK(20帖位)
  2. 対面式のキッチン
  3. 夫婦の寝室は出来るだけ広く
  4. 子供部屋を2部屋
  5. 来客者用の和室
  6. 出来るだけ多くの収納
  7. 内観・外観共にシンプルなデザイン

③予算

  • 予算1900万~2000万
    【設計費・付帯工事費含む(既存建物解体工事を除く)外構工事別】

以上が『伊藤様の求める住宅』でありました。

私は伊藤様が述べた①~③の内容のうち、②の間取り・デザインの部分より①の建物・設備の仕様と③の予算との関係が『伊藤様が今までクリア出来なかった壁』であるのだと感じました。

1-1:高気密・高断熱の家

『建物・設備の仕様』の中で最も難しいと考えられる項目が『快適な家(高気密・高断熱の家)』というところでした。
それは『高気密・高断熱の家』というものは、一般的な性能の家より間違いなく手間とお金が掛かるからです。

私自身も以前から、この『高気密・高断熱の家』というものに非常に興味があり、よく他社様の性能や工法、気になる価格についてもチェックをしていました。

なかには『この施工方法で高気密住宅?しかもこの金額?』と疑問を抱くことも多々あります。あまり他社様の批判をするつもりはございませんし、各社それぞれの考えもあると思いますので、これ以上のお話は控えますが、いずれにしても『高気密・高断熱の家』というものは、先程も話したように手間とお金の掛かる工法であることには間違いはないのです。

念のため、私は伊藤様の求める断熱性や気密性についてどれ位のレベルのものなのかを聞いてみました。
伊藤様は、少し顔をうつむけながら、『相当隙間面積C値1.0c㎡/㎡以下、熱損失係数Q値2.0以下』の性能で、かつ、その性能が長期間にわたり、変化しにくい造りにしたい』と話されました。

C値、Q値とは

C値とQ値は家の性能を示す指標の1つ。 数字が小さいほどよい。

C値とは

隙間相当面積のことで、家の気密性(すきまがどのくらいあるか)を示す指標。
家全体にある隙間面積(c㎡)を延べ床面積(㎡)で割ったもので、単位はc㎡/㎡  この数字が小さいほど気密性が高い。

Q値とは

熱損失係数のことで、保温性能を示す指標。
家の内部と外気の温度差を1℃としたときに、家の内部から外へ逃げる時間当たりの熱量を床面積で割ったもので、単位はW/m2K  この数字も小さいほど保温性が高い。

C値、Q値の背景は次世代省エネルギー基準

住宅の省エネ性能を高めるために、断熱や気密、冷暖房に関する基準を定めたものです。地域(気候)に応じて、6区分あり、一番厳しい北海道地域でC値(保温性)が2.0、Q値(気密性)が1.6、という基準値です。伊藤様の求める数値がC値1.0c㎡/㎡以下、Q値2.0以下ですので、どれだけ厳しい数値か解っていただけるかと思います。ちなみに、伊藤様邸の建築予定地の基準値は、C値5.0、Q値が2.7の地域です。

参考: 新エネルギー・産業技術総合開発機構

私は伊藤様の言葉を聞いて『やはり一番の難点は、この断熱性能と気密性能であること』だと確信しました。
それは伊藤様が求める数値が『高気密・高断熱の家』の中でもトップレベルに入る性能であり、それに比例して、コストも上がるからです。そして技術的にも、とても高い精度を必要とするからです。

しかし、その反面、『さすが様々な建物を見てきた人間だな。真剣に住宅の性能について考えているのだな。』と感動もしました。

1-2:自然素材を使用した家

私は引き続き『内装建材には自然素材を使用した家』について質問しました。

伊藤様は私の顔色を伺いながら、

水周り部分を除いた床材は、すべて本物の床(無垢材)を使いたいと思います。
また室内のドアや収納扉は一切、既製品を使用せず、人の手で造ったものにしたいと思っています。さらに下駄箱や食器棚などの収納もすべて手造りのものにしたいと考えています。

自分自身が大工という職業柄のせいか、木の匂いや温もりを感じていると、とても落ち着きます。子供たちにも木の良さや、ものづくりのすばらしさを教えてあげたいと思っています。

と答えてくれました。

私はこの2つの話を聞いて、やはり他社では『伊藤様が求める住宅』を予算内に収めることは厳しいだろうと思いました。『高気密・高断熱の家』に続いて、無垢の床材は合板フロアーやシートフロアーに比べ価格が2倍~3倍にも上がります。更に、室内のドアや収納も手造りとなれば、既製品より遥かに材料費と手間が掛かるからです。それは私以上に日々、大工の仕事をしている伊藤様の方が身にしみて感じていることだとも思いました。

私は一旦、席を外してトイレに入りました。頭の中で伊藤様から聞いた内容をもう一度、整理して考えましたが、やはり弊社でも予算内で収めることは厳しいであろうと思いました。

トイレから出てきた私を、伊藤様は不安げな顔つきで見つめていました。そんな伊藤様の姿を見ながら、私は『正直、今のお話を聞いた限りですと『伊藤様が求める住宅』をご希望の予算内で建てることは難しいと思います。ただ、実際に現地調査もしていないですし、建物の間取りやデザインを工夫することによって何か良い案が浮かぶかもしれません。』と話しました。

すると伊藤様から

実は今、藤田さんが席を外している間に少し考えていました。
人に頼っていてばかりでは駄目ですよね。現実をしっかりと受け止めて妥協しなくてはならない所をもう一度、考え直します。これからも色々と相談に乗ってください。

という有り難い言葉を頂きました。

注文住宅は理想と現実の戦い

私は伊藤様の言葉を聞いてとてもうれしくなりました。弊社も日々、経費の削減・材料コストの見直し・新規物流経路の開拓などを行い、出来る限りの努力はしています。しかしお客様がご希望される住まいが、予算内に収まらないケースは多々あります。そのような場合、何かを妥協するしかありません。

家を建てるということは、人生の中で最も高価な買い物であり、1番のイベントでもあります。我々もお客様の夢をかなえるために、あの手この手で知恵を絞りますが、やはりお客様の『諦める気持ち』も絶対に必要なのです。
このように両者の気持ちが一つになってこそ『注文住宅で家を建てる』ことが成功するのです。そこに伊藤様自らが気づいてくれたのです。

その後、時間の経過を忘れるほど、伊藤様と『家づくり』について沢山の話をしました。
帰りがけに『家づくりシート』に家族構成やご予算などの情報を記入して頂き、初顔合せは終了しました。